
「親が認知症になったら、実家は売れなくなるのだろうか」「賃貸アパートの管理は誰が引き継げるのか」。こうした不安をきっかけに、家族信託で不動産を備える動きが広がっています。家族信託は、生前に不動産の管理権限を家族へ託すことで、将来の凍結リスクや相続時のもめごとを予防する仕組みです。
本コラムでは、制度の仕組みから登記・税金・費用まで、2026年時点の実務を整理してお伝えします。
家族信託と不動産が注目される背景
この章では、なぜいま家族信託で不動産対策をする世帯が増えているのか、その背景を紹介します。
認知症による不動産凍結という現実
高齢の親が認知症と診断されると、本人名義の不動産は事実上動かせなくなります。売却の契約も、賃貸借の更新も、本人の意思能力が前提だからです。2040年には認知症の方が約584万人、軽度認知障害を含めると約1,200万人にのぼる見通しもあり、認知機能の低下に備えた財産管理は誰にとっても現実的なテーマになりつつあります。
千葉県でも進む高齢化と空き家問題
千葉県の65歳以上人口比率は28.1%で、空き家数は約39万4千戸、空き家率は12.3%にのぼります。四街道市は高齢化率28.4%、柏市は約26%で2040年には30.5%に達する見込みです。地価も2026年の全用途平均で前年比+5.0%と上昇基調にあり、使わない不動産を放置するコストは年々大きくなっています。
「家族信託」という言葉の正確な意味
家族信託は法令上の独立した制度名ではなく、信託法を親族間の財産管理に活用する実務上の通称です。信託法第2条では、信託は財産を移転して一定の目的に従い管理・処分させ、受益者に利益を与える仕組みと定められています。家族信託 不動産の話題で検索される内容も、このルールを家族間で活用する設計が中心です。
家族信託の基本構造を不動産で理解する

この章では、家族信託の三者関係と、不動産を信託したときの権利の動き方を解説します。
委託者・受託者・受益者の三者関係
家族信託には3つの立場が登場します。財産を託す「委託者」、託されて管理する「受託者」、利益を受け取る「受益者」です。典型例として、父(委託者)が長男(受託者)に自宅と賃貸アパートを託し、利益は父自身(受益者)が受け取り続ける形があります。受託者は名義を持ちますが、利益は受益者のものです。
受託者名義になっても所有者ではない理由
不動産を家族信託すると、登記名義は受託者へ移ります。ここで誤解が生じやすいのですが、名義が移っても受託者個人の自由財産になるわけではありません。信託法第34条は受託者に分別管理義務を課しており、信託財産と自己財産は明確に分けて管理する必要があります。
信託契約の3つの設定方法
信託法第3条では、信託の設定方法を契約・遺言・自己信託の3つに定めています。実務で多いのは生前の契約方式で、公正証書にしたうえで不動産の信託登記まで行う流れが標準です。
家族信託で不動産にできること・できないこと
この章では、家族信託で不動産をめぐって実現できる範囲と、対応できない範囲を整理します。
認知症後でも売却・賃貸ができる仕組み
家族信託の最大の効果は、委託者の判断能力が低下した後も、受託者の判断で不動産の管理・処分を進められる点です。契約に売却権限を入れておけば、介護施設入所の費用を捻出するための実家売却も、受託者が単独で手続きを進めやすくなります。
共有不動産のトラブル予防になる
兄弟姉妹で共有している不動産は、売却や大規模修繕に全員の同意が必要なため、意思決定が止まりがちです。共有持分を一人の受託者にまとめて信託しておけば、管理・処分の窓口が一本化され、将来の争いを予防しやすくなります。
身上監護はできないという限界
ありがちな誤解として「家族信託をすれば介護や医療の契約まで全部任せられる」と思われがちですが、これは正しくありません。家族信託でカバーできるのは財産管理だけで、入院手続きや介護サービス契約といった身上監護には対応できません。必要に応じて任意後見との併用を検討する必要があります。
家族信託と成年後見の違い
この章では、混同されやすい家族信託と成年後見を比較し、選び方の軸をお伝えします。
開始時期と柔軟性の違い
両制度の根本的な違いを表で整理します。
| 項目 | 家族信託 | 成年後見(法定後見) |
| 開始時期 | 元気なうちに契約 | 判断能力低下後に申立て |
| 不動産の管理者 | 家族(受託者) | 後見人(専門職が選ばれることも) |
| 居住用不動産の売却 | 契約に権限があれば可 | 家庭裁判所の許可が必要 |
| 身上監護 | 対応不可 | 対応可 |
| 報酬の支払い | 原則なし | 後見人報酬が継続発生 |
| 終了時期 | 契約で設定可能 | 原則本人死亡まで |
不動産売却の手続き負担の違い
法定後見では、本人の居住用不動産を売却する際に家庭裁判所の許可が必要になります。手続きには時間と書類負担がかかりやすく、機を逃す場面もあります。家族信託であれば、契約に処分権限を入れておけば家族判断で動かせます。
どちらを選ぶべきかの判断軸
財産管理の柔軟性を重視するなら家族信託、身上監護まで含めた包括的な保護を望むなら成年後見、というのが基本の考え方です。実務では両者を併用する設計も増えています。
不動産の家族信託|手続きの流れと必要書類

この章では、契約締結から登記完了までの実務フローと、揃えるべき書類を整理します。
設計から登記完了までの6ステップ
- 目的整理(1〜2週間): 認知症対策、賃貸管理、将来売却、二次承継のうち何を優先するか明確化します
- 財産調査(1〜2週間): 登記簿、固定資産評価、ローン残債、共有関係を確認します
- 契約設計(2〜6週間): 受託者・受益者・売却権限・終了事由・帰属先を設計します
- 公正証書化(1〜3週間): 契約書を整え公証役場で締結します
- 信託登記(1〜3週間): 信託目録付きで法務局へ申請します
- 口座・運用開始(2〜6週間): 信託用口座と管理ルールを整備します
信託登記で必要になる主な書類
不動産が絡む案件では、登記事項証明書、固定資産評価証明書、登記識別情報(権利証)、委託者の印鑑証明書、受託者の住民票、信託目録に記録すべき情報が中核になります。実務上は3か月以内の印鑑証明など、有効期限のある書類が多いため、取得タイミングの調整が要点です。
2026年4月施行の住所等変更登記義務化との関係
不動産にかかわる重要な制度改正として、2024年4月から相続登記が義務化され、2026年4月からは住所等変更登記の義務化が始まりました。住所や氏名が変わったら2年以内の申請が必要です。家族信託の設計時にも、登記情報を最新に保つ運用ルールを契約に盛り込んでおくと安心です。
不動産の登記論点は地域ごとの法務局管轄も関わる繊細な領域です。
費用の目安と税金の考え方

この章では、家族信託で不動産を扱う際の費用と税務上の留意点をまとめます。
専門家報酬と公正証書の費用感
一般的な案件(自宅と預貯金)で総額50万〜100万円台が一つの目安です。内訳としては、契約設計のコンサル費用が30万〜60万円、登記代行が8万〜20万円、口座関連が5万〜10万円程度を案内する事務所が多くなっています。公正証書化には目的価額に応じた手数料に加え、信託の場合13,000円が加算されます。
登録免許税の軽減措置(2029年まで延長)
不動産を家族信託する際は、登記実費の理解が大切です。建物の信託登記は評価額の0.4%、土地の信託登記には軽減措置があり評価額の0.3%です。この軽減は2029年3月31日まで延長されています。なお、登録免許税法第7条により、委託者から受託者へ信託のために財産を移す部分の登記は非課税で、課税の対象は信託登記そのものです。「名義が変わるから一律に高額」ではなく、課税される部分とされない部分があると理解してください。
贈与税・損益通算で注意すべき点
家族信託で不動産を扱う場合、税務上の注意点もあります。委託者と受益者を別人に設定した場合、相続税法上、適正な対価なく受益権を取得したと評価され贈与税が課される可能性があります。また、信託から生じた不動産所得の損失は、一定の場合に他の所得と通算できないとされる扱いがあるため、収益不動産では設計段階からの確認が欠かせません。
実務で多い5つのトラブルと予防策

この章では、不動産の家族信託でご相談を受ける中で多い失敗パターンを共有します。
売却権限を書き忘れる
実務で最も多いのが、契約書に処分権限を明記し忘れるケースです。いざ売却したいタイミングで条項がないと、受託者単独で進めにくくなります。少しでも将来の売却可能性があるなら、最初の契約設計で売却権限を明文化することが大切です。
ローン残債のある不動産を見落とす
抵当権が付いた不動産を信託する場合、金融機関との調整が必要になります。承諾なしに信託登記だけ進めると後で問題化することがあるため、ローンが残る不動産は早い段階で残債と担保抹消条件を確認します。
受託者の負担を軽く見積もる
不動産の家族信託では、受託者の事務負担を軽視しがちです。賃料の入出金管理、帳簿付け、受益者への報告など、長期にわたる責任が発生します。「長男だから」という理由だけでなく、実務を担える人を慎重に選ぶ必要があります。実務上は受託者を支える信託監督人の設置も選択肢になります。
ご相談で多いのは、「気になりながら何年も先延ばしにしていた」という声です。
まとめ|家族信託の不動産設計は早めの相談が鍵
家族信託で不動産を備えることは、認知症による凍結リスクや相続時のもめごとを予防する有力な選択肢です。一方で、契約設計を誤ると売却ができない、税務で予期せぬ負担が出る、受託者が疲弊するといった事態にもつながります。元気なうちに家族で目的を話し合い、不動産の登記簿と評価額を確認したうえで、専門家と一緒に設計するのが安全な進め方です。

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不動産の家族信託で迷ったら、まずは現状の整理からお気軽にご相談ください。